ミソギ達は謎が多い。他の六曜がクーデターを起こす前に、オレは彼女らの情報収集をしようと思い立った。水の国では有力な手掛かりは得られない。長十郎様に頼んでみるか。
「それがキミのやりたいことなのですね」
「ハイ」
他里に行き、彼等の情報を集めること。それがオレの、やりたいこと。そのためにまずは、音隠れの里のうずまき香燐に会うことにした。
「ハア?うずまき一族の事が知りたい?珍しい客もいたもんだねえ。水月!入れたのお前だろ!お前が責任取りなよ!」
「彼は香燐に用事があるんだよ」
「どうせアンタにも回ってくるんだろ」
「そりゃそうだけど」

「…あの、ミソギはうちはがどうとか言っておりました。それは本当なのですか?」
「あら、良く知っているわねえ。若いのにたいしたものね・・・」
「大蛇丸様」
「そうよ。根の意志によって波紋ミソギはうちはの膨大な記憶のデータを移植させられた。あの子の精神は子どもであっても大人なのよ。普通に生きることは可能だけどね。
普段は、うちはのデータは特殊な印で封印されているから」
「は、はあ・・・」
「そんなこと言っちゃっていいの~?」
「ミソギがいいんだったらいいんじゃねえのか?それとさ、ウチと水月の息子は元気かよ!」
「え?」
「鬼灯ミゾレは彼らの実の子どもよ。それとね…うずまき一族は滅んじゃいないわよ。
このすぐそばの渓谷にうずまきツキナと刃ナビキという夫婦がいるわ。
ミソギは彼等に育てられたの。興味があるなら会いに行きなさい。水月、ミツキはどうかしら…?」
「うん。順調だよ」
「そう」

変な人達だったなあと思いながら、オレはその渓谷とやらに行くことにした。
うずまきツキナか。一体、どういう人なんだろう。

***


「ふうー、今日の洗濯物終了・・っと」
洗濯物を終わらせ、一息つく。
「ナビキ、今日も会いに行くからね…って、私ったら。フフ」
刃(はぎり) 靡(なび)希(き)。その人は、ツキナさんの愛人であり、とても、とても大切な家族だった。
「・・・あら?」
ツキナさんは一瞬何かの気配を感じたが、その時は気のせいだろうと思い、振り返る
事をやめた。
それに振り返ったところで、今の自分になにが出来る?と。
「だめね、私。…いつ…襲われても、なんて」
自分を謙遜することはたやすい。だが、そうして自分を嫌った先に何が
ある?これがツキナさんの日課、自問自答の繰り返し。

「どうも調子が出ないわ…変な日があるものね」
そういう独り言をつぶやきながら、ツキナさんは片隅にある写真縦を見つめた。
それは、ナビキさんと初めて撮った最初で最後の写真。その中で、困ったように笑うナビキさんの姿は、一生の宝物だ。
その笑顔を、もう見られることは無いのだから。
しばらくして、一つの気配があることに気が付いた。そう、暗部の面をかぶった、オレの気配。

「珍しい来客ね」
こども…?
「オレは水の国のからたちかぐらと申します」
「…やぐらの孫ね」
「・・・」
オレの祖父やぐら。うちは一族に操られ恐怖政治を強いた悲しき影。
音隠れに行った時、記録されていたミソギの記憶の一部を見せてもらった。
「あの、他に人は」
「いないわ」
「話では、もう一人いると…」
「亡くなったの。数日前にね」
「え…」
(刃ナビキは私の夫。その人は、とある奴との相討ちで死んだわ。)
ツキナさんはそう呟いた。その目からうっすらと雫が垂れた。その瞬間をオレは見逃さない。
「やはり六曜“仏滅”ですか」
「よくご存じね。シヤカと呼ばれる水の国の抜け忍にやられたのよ。突然だけどあなたが水の国の暗部なら、私のお願い、聞いてくれる?」
「ええ。ですがその前に、あなたからお聞きしたいことがあります」
―――――波紋ミソギの親のことです。

オレがそう尋ねればツキナさんは軽く息をついてからこう答えた。
「あの子、明るいでしょ」
「え?あ…、ええ…」
「でも、あの子は私達が育てる前の記憶が封じられているの」
「え?」
言うには、なんでも根の出来事が彼女には精神的にも肉体的にも過酷だったらしい。
ツキナさん達夫婦が譲り受けたときは既に記憶を封印された後だったとか。
その後の彼女の知能はただの子ども。時折爆発的に忍術が向上することもあったらしいが、
それは記憶がほどけそうになったときのみ。
封印が完全に解ければ、彼女がどうなるか。それはツキナさんでも分からないという。
「あの、何故ツキナさんは仮面を被ったオレにそこまでミソギの事…」
「フフ。あなたがミソギの事を好きなことが伝わってきたからよ」
「え!」
「暗部…とはいえまだ子ども。暗殺する相手もいないんじゃ、
ボロが出てもしょうがないものね。オホホ」
「は、はあ…申し訳ありません…」
今日は遅いからゆっくりしていきなさいよ。とツキナさんはオレを夫婦の家に誘った。
仮面も外しておいでね、と。
うずまき一族の女性は強い。オレは、そう思った。


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